唐突に幕を開けた騒々しい日々。原因は合唱祭である。合唱祭というのは、阿呆のような顔をしながら大きな声で歌を歌った後、そのままの調子でデニーズ等のFamily Restaurantにブッコミをかまし、目を覆わんばかりのドンチャン騒ぎを繰り広げ店員の顔を苦痛に歪ませるイベントである。文化祭の後の打ち上げ―むしろこっちが本番といった感も漂っているように思えたが―では、その秘められし小宇宙(コスモ)をいかんなく爆発させ、見事他のお客さんの眉間に皺を出現させた我がクラスメートたち。今回も店員を困らせるあの手この手を練るのかと思いきや、なんと驚くべきことに合唱の練習を始めた。え、お前ら、一体全体、何をやっているの(新手の嫌がらせ方法?)?


放課後の校舎に、歌声が響き渡る。それはまだ未熟ながらも、この後の成長を予感させるものだった。美しい調べとともに流れ行くさわやかな音たち。ピッ。おもむろに始まったのはピアノ協奏曲第一番『蠍火』。僕の耳にはイヤホン。雑音が多いな。一人呟きながら歩くグラウンド。別にサボっている訳ではない。クラスの有志により、練習場所と時刻が明記されたプリントが配られ、曰く、あと一週間は練習がないとのことだった。こんなんでいいのか?とも思ったが、どっちにしろ練習は面倒なので、何も言わなかった。



今日の朝。登校する。ガラガラガラ。ドアを開ける。やけに人数が多い。そして妙なことに、人口は教壇の近くに密集していて、中心には何かピアニカのような楽器を持った少年がいる。彼らが音を出すたびに、周りの男たちは、野太い声を出し始める。これはなんだろうか。例えば今日突然新興宗教が流行し始め、これは何かの儀式(降霊とか)だというならば、ある程度の説得力は持つかもしれない。しかしながら、下校→登校の間僅か10時間余りでこれほど宗教を浸透させるのは不可能に近い。つまり、まさか、もしかすると――



「オイ、遅刻かよ。もう練習終わりだぞ」



こうしてまた、独りの時間は多くなっていく。