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頼むから。頼むからもう電話をするな。メールを送ってくるな。俺は唯、久しぶりの自由な一日、そう、たった一日。俺は本屋に行って適当な文章に金を払い、それを楽しみたいだけなのだ。貴様らの言わんとすることは解る。貴様らも暇なんだろう?そしてその暇つぶしに、俺の反応を、俺の言動を、俺の時間を、蹂躙し、陵辱し、嘲笑し、そしてお前らは時が来ると颯爽と自室へ帰っていくのだろう。その全てに悪意はないのも解る。つまりはイノセント、この単語は貴様らのために或るようなものだ。しかし、それは確実に俺を蝕み、傷つけ、そして壊す。だから止めろ。俺は今日がすぎれば、また貴様らの世界に戻る。絶え間ない刺激、極彩色の青春、それに慣れきったお前らが構築するクソッタレ現実に、俺は戻る、戻される、だから今だけ。俺を孤独にしてくれ。そう、今だけ、今日だけ、たった一日じゃないか―――
そんなことを夢想しながら、独り、パソコンの前で波乗りに耽る。僕が何を考えようと、携帯電話は頑なに沈黙を保ち続けている。もう昼飯は済んだ。これから駅前の本屋に向かう。
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唐突に幕を開けた騒々しい日々。原因は合唱祭である。合唱祭というのは、阿呆のような顔をしながら大きな声で歌を歌った後、そのままの調子でデニーズ等のFamily Restaurantにブッコミをかまし、目を覆わんばかりのドンチャン騒ぎを繰り広げ店員の顔を苦痛に歪ませるイベントである。文化祭の後の打ち上げ―むしろこっちが本番といった感も漂っているように思えたが―では、その秘められし小宇宙(コスモ)をいかんなく爆発させ、見事他のお客さんの眉間に皺を出現させた我がクラスメートたち。今回も店員を困らせるあの手この手を練るのかと思いきや、なんと驚くべきことに合唱の練習を始めた。え、お前ら、一体全体、何をやっているの(新手の嫌がらせ方法?)?
放課後の校舎に、歌声が響き渡る。それはまだ未熟ながらも、この後の成長を予感させるものだった。美しい調べとともに流れ行くさわやかな音たち。ピッ。おもむろに始まったのはピアノ協奏曲第一番『蠍火』。僕の耳にはイヤホン。雑音が多いな。一人呟きながら歩くグラウンド。別にサボっている訳ではない。クラスの有志により、練習場所と時刻が明記されたプリントが配られ、曰く、あと一週間は練習がないとのことだった。こんなんでいいのか?とも思ったが、どっちにしろ練習は面倒なので、何も言わなかった。
今日の朝。登校する。ガラガラガラ。ドアを開ける。やけに人数が多い。そして妙なことに、人口は教壇の近くに密集していて、中心には何かピアニカのような楽器を持った少年がいる。彼らが音を出すたびに、周りの男たちは、野太い声を出し始める。これはなんだろうか。例えば今日突然新興宗教が流行し始め、これは何かの儀式(降霊とか)だというならば、ある程度の説得力は持つかもしれない。しかしながら、下校→登校の間僅か10時間余りでこれほど宗教を浸透させるのは不可能に近い。つまり、まさか、もしかすると――
「オイ、遅刻かよ。もう練習終わりだぞ」
こうしてまた、独りの時間は多くなっていく。
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世界というものは絶望と虚無で満ちていて、土台は砂上の楼閣の如し、不安定で頼りなく、その上に作られしものも当然のことながら無意味、それはまさに無であり、僕らはただただそれを呆然と眺めることしか出来ないのであって、というか何で恋愛バトンなる無意味も無意味、それこそさとう珠緒がもつ漢字の知識すら彷彿とさせるものをこの僕に向かって投げつけてくれるのか。意味がわからん。投げつけたこの人に小一時間問い詰めたい。・・・しかしながら、それもまた無であり、然るにタイムイズマニー、というかめんどくさいのでさっさと答える。関係ないけど文体かえるとろくなことにならないね。
1 (最近の芸人で)気になる人、好きな人、恋人はいますか?
気になる人
陣内友則はなかなかいいね、と弟が言ってました。
好きな人
恋人
ざんねん! ぼうけんのしょ は きえてしまいました
2 それはどんな(芸)人?
なにか狂気を感じる芸人がお気に入りです。
3 好きなタイプ(芸風)は?
上に挙げた松本とかあと特に太田とかいいねー。
4 逆に嫌いなタイプ(芸風)は?
5 異性で「ここに弱い!」ってところは?
ざんねん! ぼうけんのしょ は きえてしまいました
6 好きな芸能人は?
さっきもいったけど、松m(略
7 好きな人に歌ってほしい曲は?
ざんねん! ぼうけんのしょ は きえてしまいました
8 (もし万一誰かにカラオケに誘われたら)歌ってあげたいのは?
大迷惑(ユニコーン)
9 好きな人のために努力していることは?
ざんねん! ぼうけんのしょ は きえてしまいました
10 好きな人にされて、嬉しいことは?
ざんねん! ぼうけんのしょ は きえてしまいました
11 バトンを回す無機物や有機物たち。
塩 ナップザック ベータマックス方式のテープ 広辞苑(第7版) 単三アルカリ乾電池
答えるに絶望。答えた後の虚無。之まさに世界の縮図の如し。要約すると明日地球が爆発すればいいと思いました。あと僕にバトンを回された方は答えなくても結構です。
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夏休みは終わった。これは完全に事実であり、揺るぎようの無い真実であり、誰の目から見ても明らかな公理である。しかしながら、我が目の前には依然として夏休みの宿題がつまれているのもまた事実であり、何故夏休みは終わったのに宿題はサドンデス突入するですか?何で悪夢は終わらないですか?と一人呟きながら虚ろな双眸で天を眺めること山の如し、そしてそんなことをしているうちに失われる時間、プライスレス。
宿題は終わったはず。8月31日10時未明、僕は確かに歓喜の中にいた。その感情はしかし、ひとえに風の前の塵に同じ、儚く、そよ風一つでどこまでも飛んでいってしまうようなものだったのか。つまるところ何が言いたいかって言うと宿題やり直し。必死の形相でやり遂げた地学のレポートは明らかに手抜きとばれるので文章の校正&水増し。一番楽だった工芸のレポートは黒のペン書きで書かねばならず、しかもスケッチを描き忘れ。両方期限は明日まで。その後控えるのは怒涛の英単語テスト&百人一首テスト。これら悪夢を目の前にしては郵政民営化とかホリエモン出馬とか欽ちゃん球団大人気とか全ての事象は最早意味を成さず、ただただ圧倒的な虚無感の前に吹き散らされること「カトリーナ」の前の新聞紙に同じ。僕らの夏は終わらない。